はじまりは政略結婚
「あ、そうなんですか……?初めまして、百瀬由香です」

兄から手を離し立ち上がると、小さく会釈する。

この人が元カノ里奈さんだとは、驚きと共にショックと、少しのヤキモチを覚えた。

その彼女は、表情一つ変えることなく、淡々と返事を返してくる。

「初めまして……」

その雰囲気から、里奈さんが私にいい印象を持っていないのは勘でわかった。

早々に彼女から視線をそらし、代わりに智紀に目を向ける。

「三人でどうしたの? ランチ?」

眉間にシワを寄せて兄を見ていた彼は、私に向き直ると小さな笑顔を見せた。

「ああ。仕事の打ち合わせを兼ねてな。それより、お前たちの相変わらずのシスコンとブラコンぶりには呆れるよ」

最後には、私にもへの字口を見せた智紀に、涼子さんが笑いながら彼の腕を掴んでくる。

今までなら、気にならなかったと思うのに、あんなキスシーンを見たからか、彼女が智紀に触れることに抵抗を感じてしまったのだ。

「いいじゃない、智紀。二人の邪魔をしちゃダメよ」

「邪魔って、どういう意味だよ。だいたい涼子はイヤじゃないのか?」

兄は二人を楽しそうに見ているから、きっと彼女の気持ちには気付いてないんだろう。

そう思うと、ますます複雑な気持ちになってくる。

「おあいにく様。私は兄妹愛にヤキモチを妬くほど、心は狭くないから」

クスクス笑う涼子さんは、バツ悪そうに言葉を失う智紀を無視して、半歩後ろにいる里奈さんに声をかけた。

「じゃあ、里奈さん行きましょうか。時間もあまりないし」

「はい。それじゃあ百瀬副社長、失礼します」

顔見知りの兄と里奈さんは、軽く挨拶を交わして、三人は奥へと進んでいった。

今夜、智紀が里奈さんに会う理由を知りたい。

ここで解決出来ない問題があるの?

わざわざ、夜に会い直す必要がどうしてあるのだろう……。
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