はじまりは政略結婚
里奈さんが動揺を見せたのは、私が反論した一瞬だけで、すぐに元の自信たっぷりな表情に戻ると、至近距離まで近付いてきたのだった。

「私と智紀は、半年前まで付き合ってたの。でも、一方的に別れを告げられて、正直心の整理なんて出来なかった。でも、今回のことで自信を取り戻したわ」

「自信……?」

やっぱり、二人は付き合っていた。

こんなにはっきり言われると、改めてショックの大きさを痛感する。

「そう。智紀が別れを告げたのは、あなたと政略結婚をする為。つまり、会社の為よ。だとしたら、私への愛情が冷めたわけじゃない。だから、彼を返してもらうわ」

自信に満ちた里奈さんの笑顔に、私は息を飲むしかなかった。

なぜこんなに、彼女は言い切れるのだろう。

兄も、当の本人である智紀も、私への想いを話してくれた。

だから政略結婚といっても、単にその言葉通りじゃないと思えてきたのに……。

そう信じているのに、里奈さんを前に心が揺れてしまう。

智紀を疑う気持ちが芽生えそうで、それを必死に押し込めた。
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