はじまりは政略結婚
兄のその言葉の意味は、サロンへ着いて実感した。

白装飾の都会的で洗練されたその店は、予想通り混雑していて予約無しでは切ってもらえない。

だけど、名刺を差し出し名前を告げた途端、奥から佐江さんが出て来たのだった。

「いつかは来ると思ってたのよ、初めまして由香ちゃん」

髪を後ろでアップにして、薄い黄色のTシャツとモスグリーンのサブリナパンツを履いている彼女は、目の大きな美人だ。

「智紀との婚約おめでとう。さあ、こっちへ来て」

奥の座席へと案内をしてくれた佐江さんは、笑顔で鏡越しに私を見た。

「あの、突然来てお邪魔じゃなかったですか?」

私が来店したことに、まるで驚かない佐江さんが不思議だ。

戸惑うのは私の方で、おずおずと聞くと彼女はケラケラ笑ったのだった。

「全然。今日はちょうどさっきまで、別の仕事で出てたから予約は入れてないの。由香ちゃん、ラッキーだったわよ。さすが、祐也の妹で智紀のフィアンセだけあるわね」
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