はじまりは政略結婚
「まったく、さっき佐江から連絡がきた時には驚いたよ。あいつに何を言われたか知らないけど、口車に乗せられるんじゃない」

智紀は大きくため息をつくと、私の背中に手を回した。

「外でタクシー拾うから、早く帰れ」

どうして、そんなに冷たい言い方をするんだろう。

ヘアスタイルが変わったことに気付かないはずがないし、智紀なら私のイメチェンが大きな意味を持つことくらい分かってくれると思っていたのに……。

それを、まるで話題に触れないどころか、頭ごなしに帰れと言われて、かなり傷ついてしまった。

今までここに、大した意味なく私を連れて来たのは智紀の方だ。

そんな恨み言を心の中で呟きつつ、彼に反抗も出来ないまま局を出ようとした時だった。

「智紀！ 急いでよ。撮影が押してるのよ」

里奈さんの声がして反射的に振り向くと、彼女が目を丸くして走ってきた。

「由香さん⁉︎ かなり印象変わりましたね。驚きました。似合うじゃないですか」

智紀の前だからか、私に宣戦布告をした勢いを消して、人懐っこい感じのいい人に変わっていて呆れる。

それにしても、智紀より先に彼女に褒められるなんて、少しも嬉しくない。
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