はじまりは政略結婚
ほとんど強引な彼女に、戸惑いを隠せなかった。

「いえ、いいです。このまま帰りますから」

手を振りほどこうにも、細い腕の割に力の強い里奈さんに対して、まるで抵抗が出来ない。

なぜか、彼女は私を撮影場所まで連れて行きたそうで、それも謎だった。

「里奈、しつこいぞ。手を離せ」

智紀は少し周りを気にするように、里奈さんに小声で制する。

さすがに、副社長ともあろう彼が、こんな場所で見られるには、気まずいシチュエーションに違いない。

それを感じて、私は構える姿勢の力を緩めた。

「由香さんが来ちゃいけない理由はないでしょ? 副社長の婚約者が見学なら、みんな許してくれるって」

さらに強引に引っ張る里奈さんに、私の足は一歩、また一歩と進まざる得ない。

その姿に智紀も諦めたのか、がっくりうなだれたのだった。

「分かったよ。だけど由香は、オレの側で見学しろ。それから、エキストラの穴埋めは絶対にダメだ」
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