はじまりは政略結婚
智紀は父たちに挨拶を終えると、強引に私の手を取りホテルを出る。

すると、玄関前に待機していたタクシーに無理矢理乗り込ませたのだった。

そして、運転手に告げた行き先は、紛れもなく智紀のマンションで、この政略結婚は本気なのだと思い知らされていた。

15分ほど走ると、タクシーは高級住宅街として有名なエリアに入り、その中でもひときわ目立つマンションの前で停まった。

智紀のマンションを数回、外観だけは見たことがある。

その時は、兄と車で通っただけだったが、まるでホテルの様なマンションに驚いたのを覚えている。

私の実家は純和風の一戸建てで、敷地面積はそれなりに広い。

庭には池や鹿威しもあるけれど、それは高級感を装いたいわけじゃなく、来客に落ち着いた場所を提供したいだけ、そんな父の意向を反映させたものだった。

だから、智紀のマンションの様に、エントランスからヨーロピアン調で、いかにも『高級です』と言わんばかりの雰囲気には馴染みがないのだ。

「由香。何、ボーッとしてるんだよ。ほら、行くぞ」

「あ、うん……」

建物を見上げていた私の手を引っ張り、智紀はエントランスを指紋認証で開けている。

「エントランスから、指紋認証なの⁉︎」

驚く私に、彼は呆れた顔をした。

「セキュリティの為だからな。ちなみに、郵便物なんかはクラークが受け取るシステムだよ」

「クラーク? って、あのホテルとかの?」
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