はじまりは政略結婚
エレベーターに乗り込んだ智紀は、最上階である52階のボタンを押しながら頷いた。

「そう、似たようなもんだよ。いわゆる管理人だな」

「へぇ。そういうシステムがあるのね……」

思い返せば、友人にもこんなタワーマンションに住んでいる人はいないから、いちいち感心してしまう。

きっと智紀には、世間知らずだと思われているんだろうな……。

あっという間に最上階に着きエレベーターを降りると、そこには部屋が一つしかなく、まるでプライベート空間になっていた。

ドアまでの廊下は大理石仕様で、その途中には、黄色が基調の品のある生花が、高級感漂う白い花瓶に生けられていた。

「最上階って、智紀の部屋だけなのね」

「ああ、そうだよ。だから、落ち着くだろ?」

ドアを開けた智紀は、私の肩に軽く触れ中に入る様に促す。

それまでは、流されるままついて来た感じだったけれど、部屋を目の前に緊張してきて、さすがに足が進まない。

すると、智紀は私の肩を抱いて耳打ちしてきたのだった。

「ここまで来たんだから諦めろよ。由香、今夜からオレたちは、ここで一緒に暮らすんだ」
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