はじまりは政略結婚
どうやら、噂はしっかり広まっているらしい。
その質問に答えるのは、かなり胸が痛むけど、苦笑いをしつつ左手を顔の高さまで上げた。
「見ての通りです。ただ、世間的にきちんと公表していないので、まだまだ知られていないですけど」
だから、実は会社の人は誰も知らない。
だいたい婚約破棄は、会社の利益問題になるから、簡単に公表できないと兄は言っていたけど、ここで噂になっているのは変だとは思っている。
とはいえ、それを知ろうとする気力はない。
左手薬指に指輪がないというだけで、こんなにも寂しい感じがするとは思わなかった。
何も気力がわかず、会社と兄のマンションの往復だけで一週間以上過ごしていたのだった。
それに智紀からの連絡はなく、兄からは絶対に余計なことをするなと言われているから、嶋谷家にも実家の両親にも会えないままでいる。
「やっぱり、そうなんですか……。あの、百瀬さんに言おうかどうか迷ったんですけど……」
桜さんはうなだれたかと思うと、おずおず顔を上げて言った。
「里奈さんが、かなり怪しくて……。どういういきさつで、おふたりが婚約破棄を選んだのか分からないんですけど、何か脅されたりしてません?」
その質問に答えるのは、かなり胸が痛むけど、苦笑いをしつつ左手を顔の高さまで上げた。
「見ての通りです。ただ、世間的にきちんと公表していないので、まだまだ知られていないですけど」
だから、実は会社の人は誰も知らない。
だいたい婚約破棄は、会社の利益問題になるから、簡単に公表できないと兄は言っていたけど、ここで噂になっているのは変だとは思っている。
とはいえ、それを知ろうとする気力はない。
左手薬指に指輪がないというだけで、こんなにも寂しい感じがするとは思わなかった。
何も気力がわかず、会社と兄のマンションの往復だけで一週間以上過ごしていたのだった。
それに智紀からの連絡はなく、兄からは絶対に余計なことをするなと言われているから、嶋谷家にも実家の両親にも会えないままでいる。
「やっぱり、そうなんですか……。あの、百瀬さんに言おうかどうか迷ったんですけど……」
桜さんはうなだれたかと思うと、おずおず顔を上げて言った。
「里奈さんが、かなり怪しくて……。どういういきさつで、おふたりが婚約破棄を選んだのか分からないんですけど、何か脅されたりしてません?」