はじまりは政略結婚
どんな言葉で表現しても、うまく気持ちが伝えられない。

唇を噛みしめるだけの私の手を、智紀はそっと握りしめた。

「里奈があんな手段に出たのも、あいつを好きだと思える前から、付き合ったオレのせいだ。だから、本当にごめんな由香。誰より大事なお前を、苦しめてしまった」

彼の想いを聞けば聞くほど、胸はどんどん高鳴ってくる。

「ううん。それに、私を助けてくれたじゃない。写真のネガまで手に入れて……。仕事も忙しいのに、大変だったでしょ?」

「いいや、全然。それで由香を取り戻せるなら、なんてことない。なあ、由香。もう一度、本当の気持ちを教えてくれないか?」

真顔になった智紀は、私をまっすぐ見つめる。

それが、プロボーズの返事のことを言っているのだと、聞かなくても分かった。

「私は、智紀の側にいたい。これからずっと……。その……『奥さん』として……」

最後は恥ずかしくてうつむいた私を、智紀はギュッと抱きしめた。
< 301 / 360 >

この作品をシェア

pagetop