はじまりは政略結婚
「いいものって?」

まだ嫌悪感を拭いきれていない私は、少し硬い口調で聞いた。

「だから、本当はそこまで思っていないこと、冗談半分で言ったこともあったんじゃないかと思ったんだよ」

「そう……。そういうことね」

まだ釈然としないけど、これ以上何かを言うつもりも言いたいこともない。

とりあえず、そこで話を終わらせると、智紀は腕時計を確認して支度を急いだ。

「じゃあ、行ってきます。今夜は遅くなるから、由香は先に寝てて」

「うん。いってらっしゃい」

いつも通りに玄関で見送ると、智紀が顔を近づけてきた。

それがキスをすることだと分かって、反射的に避けてしまったのだった。

正直、海里の話をしたばかりで、そんな気にはなれない。

すると、智紀はそれ以上強要することはなく、ぎこちない笑顔を浮かべて出て行ったのだった。
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