はじまりは政略結婚
お風呂に向かう彼の後ろ姿を見つめながら、しばし呆然とする。

あの口ぶりだと、寝る場所は一緒みたいで、すぐさま教えてもらった部屋へ向かった。

そこにはダブルベッドがあり、さらに呆然とする。

まさか、ここで一緒に寝るということなの……?

視線を動かすと、横には丸いサイドテーブルがあり、経済誌と音楽雑誌が無造作に置かれていた。

窓からは、それまでの景色とは一転、住宅のポツリポツリと照らされる明かりだけが見える。

「どうしよう。一緒に寝るとか、いくらなんでもハードルが高いよ」

ソワソワしながらベッドへ腰を下ろすこと、約15分。

同じく、ルームウエアに着替えた智紀が入ってきたのだった。

「やっとサッパリしたな」

お風呂上がりの彼は、タテガミのような髪をオールバックにしている。

生乾きのままで、ふわりとシャンプーのスパイシーな香りが漂ってきた。

それにしても、髪型一つ変わるだけで、随分印象が変わるものだ。

オールバックで顔を出しているせいで、派手で目立つルックスがますます目立ち、ワイルドさが増していた。

それをカッコイイと思ってしまうけれど、『だから好き』とはならない。

智紀はボーッと座っている私の隣にやって来て、小さな笑みを浮かべて顔を覗き込んだ。

「ちゃんと待ってたんだな。てっきり出て行かれるかと思ってたけど」

「えっ? そういえば、そうすれば良かったの⁉︎」

言われて初めて気付いたけれど、もしかして絶好のチャンスを逃したのかもしれない。

荷物もあるし、勝手に腹を括っていたけど、逃げれば良かったんだと思い、ガックリと肩を落としたのだった。
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