はじまりは政略結婚
「海里、お前は少し誤解してる。オレがやりたいのは、潰すことじゃない。もちろん、業務拡大は進めるつもりだ。だけど、それは何かを潰すことが前提じゃない」

「きれいごとで誤魔化すな。オレの事務所から、モデルを引き抜いてるじゃないか。お陰で、事務所の収入は減っていくばかりなんだぞ? 後は、潰れるしかないじゃないか」

「だから、それが誤解なんだよ。たしかに、ファッション誌は独占したい。だけど、お前だって分かるだろ? モデルを起用してもらう代わりに、事務所もスポンサーとしてお金を払ってるんだ」

智紀の言葉に、海里は口をつむいだ。

「それは、小さな金額じゃない。お前が所属する事務所には、今それを支払える財務体力がないんだ。それじゃ、モデルを抱えても仕事が取れない。俳優たちを育てることもできない。だから、うちが引き抜く代わりに、それに見合った金を払ってるんだよ」

そこまで言うと、海里はうなだれた。

それまでの勢いなど、まるで感じないくらいだ。

「お前の事務所は、それでできた金で、今いるタレントたちを育てるらしい。海里、お前は特に力を入れてるって、社長が言ってたぞ?」

「え……?」

顔を上げた海里は、真っ直ぐ智紀を見た。
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