はじまりは政略結婚
「だから、お前のことは引き抜かないで欲しいと言われた。まあ、個人的感情で言わせてもらえば、頼まれても引き抜きたくないけどな。どんなことがあっても、お前だけは育て抜きたいんだってさ」

すると、黙って聞いていた海里は、その場に崩れ落ち、押し殺すように泣いた。

荒れ始めた自分を拾ったのは、社長だと言ってたものね。

きっと思い出が蘇って、感極まったに違いない。

そんな海里の前にしゃがみこんだ智紀は、ドスのきいた声で言ったのだった。

「ただし、由香に何かすれば、オレは徹底的にお前を潰す。いいな?」

ほとんど脅しのような条件に、海里は何の反応も示さない。

その姿を見た私は、バッグから指輪を取り出した。

それは海里とのペアリングで、今日返すつもりで持ってきたのだった。

「海里、これ返すね……」

智紀の隣にしゃがみこみ、うつむく彼に指輪を差し出した。
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