はじまりは政略結婚
ゆっくり彼の手を離し、代わりに指輪をその手に置いた。

もう、何も言う気になれないのか、指輪を見つめたまま海里は動かない。

「行こう、由香」

智紀に促され立ち上がると、海里が気になりながらも部屋を出た。

「海里、大丈夫かな……。ひとりにして……」

足早な智紀に手を引かれながら、スタジオの方を振り向く。

鉄扉は固く閉じられ、海里が出てくる気配はない。

「大丈夫だよ。あいつは、まだ仕事が入ってるし。それに社長に連絡しておいたから、迎えに来てくれるはずだ」

「社長が⁉︎ いつの間に、そんなことをしたの?」

驚きで目を見開く私に、智紀はいたって真面目に答えた。

「ここへ来る前に。海里が考えつくことは想像できたから。今回の記事は、あいつの母親が売ったんだってな」

お約束のように副社長室へ向かった智紀は、私を中へ入れると鍵を閉めたのだった。
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