はじまりは政略結婚
こんな風に抱きしめられると、やっぱり安心できるのは彼の胸の中だとしみじみ思う。

私も智紀の背中に手を回し、ギュッと逞しい体を抱きしめた。

「由香にも誤解されたくないから言っておく。オレは、単に興味本位で他人の身辺を調べたりしない。そこにビジネスが絡んでいたり、今回みたいに大事なものを守る時だけだ」

「うん……。私、かなり誤解してた部分があったかも。お兄ちゃんが、智紀が海里を潰そうとするかもって、そんなことを言っていたことがあったから」

「えっ⁉︎ 祐也が⁉︎」

それまでの甘い空気が一変、我に返った智紀が、勢い任せに体を離した。

それをちょっと残念に感じながらも頷く。

「うん。ほら、智紀が涼子さんと里奈さんの三人でランチしてた時よ。偶然会ったでしょ?」

そう言うと、智紀は思い出そうとするかのように、少しの間視線を宙に向け、そしてため息をついた。

「思い出したよ。そんなことを言われて、よくオレを好きになってくれたね。これでフラれてたら、一生祐也を恨んでたと思う」
< 337 / 360 >

この作品をシェア

pagetop