はじまりは政略結婚
『埋め合わせ』の言葉どおりに、彼のキスはいつもより、だいぶ強引だ。

強く舌を絡ませてきて、息ができない私は、いつの間にか甘い声を漏らしていた。

「ん……、智紀……」

一瞬、唇が離れる隙に呼吸をするけれど、また塞がれて、静かな副社長室には、いやらしいほどのキスの音が響いた。

痛いくらいに抱きしめられ、体がどんどん熱くなる。

これ以上、ここで気持ちが高ぶるわけにはいかず、なんとか智紀の体を離した。

「仕事の途中なんでしょ? これ以上は、ダメだよ……」

呼吸が乱れているのは彼も同じで、肩で息をしながら恨めしく私を見た。

「分かった。ただ、ひとつ由香に罰を与える」

「罰?」

何を言うのだろうと思っていたら、子どものように拗ねた感じで私に命令したのだった。

「オレを疑った罰。仕事が終わるまで、ここで待ってて」
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