はじまりは政略結婚
「え……。やだ、変なこと言わないでよ。だったら、せめて寝る場所を別々にしない?」

キスを受け入れてしまったから、きっと智紀は次のステップを考えたんだろうけど、さすがに一線を越えることには、かなりの抵抗がある。

そもそも、こんな強引な同棲を受け入れているだけでも凄いと思うのに、その上体の関係まで求められたのではたまらない。

だけど、智紀は強引に婚約指輪が光る私の左手を持ち上げると、言ったのだった。

「婚約は成立してるんだ。大勢の証人だっている。寝る場所を別々なんて、オレは受け入れられないな」

「そんな……。私は、婚約を受け入れたくないくらいなのに……」

恨めしく見上げると、智紀は少しバツ悪そうな顔をした。

「それは、確かに強引だったと思ってる。だけど、由香が好きだから。……分かった。お前がいいと思うまで、キス以外しないと約束するよ」

キスはするんだ……と、心の中でツッコミを入れてみたけれど、口に出すのはやめた。

不思議と彼のキスに、嫌悪感を持たなかったことが戸惑う部分ではあるけど、ストレートに気持ちを表す智紀に、心を揺さぶられていることに間違いはなかった。
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