はじまりは政略結婚
「ここで? 私はいいけど、気が散らない?」

来客用ソファーに座らされると、智紀は自分のデスクに戻った。

「全然。むしろ、海里にあんなことをされた後で、由香をひとりで帰せないだろ」

罰なんて言っていたけど、本当は私を心配してのことだと分かり、ますます彼への想いが強くなる。

それと同時に、海里に押し倒された光景を思い出し、慌てて弁解していた。

「ねえ、智紀。私、海里には何もされてないから。あんな状況だったけど……その、キスとかされてないから」

最後の方は恥ずかしくなり声が小さくなった私を、智紀は目を細めて笑った。

「分かってるよ。さっきのキス、オレ以外の男の匂いなんてしなかったから」

「やだ……。なんか、恥ずかしい言い方ね」

顔が赤くなる私を、彼はますます笑っている。

「だけど、もしキスをされていたとしても、オレは気にしないよ。そんなことで、由香への想いが変わることなんてない」
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