はじまりは政略結婚
それに、直接聞くってなにを?

智紀の言いたかった意味が分からないまま兄たちを出迎えると、ふたりとも正装をしていて驚いた。

兄はダークグレーのスーツ、そして涼子さんはゆったりとしたクリーム色のワンピース姿だ。

「ねえ、智紀の部屋にくるだけなのに、ちょっと固い服装じゃない?」

兄にそう言うと、苦笑いをされた。

「まあまあ、そこは今突っ込むなよ。それより、涼子はソファーに座れ」

智紀は涼子さんを、さっきまで私たちが座っていたソファーへ促した。

すると涼子さんは、ためらいがちに私を見た。

結納前に、写真のことを謝られたけど、本当にもうなんとも思っていない。

あのとき、涼子さんは『智紀への感情は、ほとんど兄妹愛みたいなものだったって分かった』と言っていた。

智紀も師弟関係みたいなものだと言っていたし、ふたりの言葉に疑う余地はないことも分かってる。

だから、まだ気を遣われる素振りを見せられて、私は彼女へ笑顔を向けた。

「涼子さん、気を遣わないでくださいね」
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