はじまりは政略結婚
「分かったなら、もう寝よう。お互い明日は仕事だしな」

布団をめくった智紀に促されるまま横になる。

彼の匂いのするシーツに緊張しながら横になっていると、智紀に体ごと振り向かされた。

「何で、背中を向けるんだよ。こっちだろ?」

すると目の前に智紀の顔があって、反射的に目をそらしてしまう。

「顔が近いよ……。これじゃあ、緊張して眠れない」

「大丈夫、慣れるから。こうすれば、もっと眠れるよ」

そう言った智紀は、ふわりと包み込むように私を抱きしめたのだった。

「余計寝れないってば……」

あんなに苦手だと思っていた人に、なぜかドキドキしていて、抱きしめられている分、体がどんどん熱くなる。

それなのに、智紀は笑顔を浮かべて目を閉じているのだから悔しい。

「こっちは緊張してるのに……」

思わず出た恨み言にも彼は目を開けるどころか、うつろな口調で応えたのだった。

「オレも緊張してるよ。でもやっぱり、由香がいると思うと、最高に嬉しい……」

そして、穏やかな寝息が聞こえてきて思わず起き上がると、抱きしめていた腕がだらんと落ちた。

「寝ちゃってる……。もう、のんきなんだから」

それにしても、智紀は寝顔も男前で、つい見入ってしまう。

そんな自分を正すように首を思い切り横に振りながら、今なら逃げ出すチャンスかもと考えてしまっていた。
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