はじまりは政略結婚
毎朝、キスをされたんじゃ心臓がもたない。

とはいえ、朝が苦手だからスッキリ起きられそうになく、これは智紀と話し合いをする必要がありそうだ。

彼に遅れること1分。

リビングへ出ると、智紀がカバンを片手に玄関へ向かうところだった。

その背中を追いながら声をかける。

「智紀ってば、もう行くの?」

「ああ、打ち合わせなんかで忙しいんだ」

「そうなんだ……。大変なのね」

靴ヘラを使いながら黒の革靴を履いた智紀は、せわしなくドアノブに手を掛ける。

だけど、ドアを開けることなく振り向いたのだった。

「由香、ちょっと」

人差し指を動かしながら、私に側へ来るよう促している。

意味がいまいち分からないながらも彼に近付くと、腕を引っ張られ唇が重なった。
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