はじまりは政略結婚
そのキスは、さっきベッドでされたものとは全然違い、昨日の夜を思い起こさせるものだった。

息が出来ないし、あまりにギュッと抱きしめてくるから、その場に倒れ込みそうなくらいだ。

「智紀……。急いでるんでしょ?早く行かないと……」

ようやく体を離すと、智紀はチラッと腕時計を目にしている。

その時計は、有名な海外ブランドのもので、シックななかにもカジュアルさがあり、彼にピッタリな品だ。

「そうだなぁ。やっぱり、時間がない。仕方ないか。じゃあ、行ってくるな」

笑顔を浮かべ、今度こそドアを開けて出て行こうとするその背中に、咄嗟に声をかけていた。

「ねえ、帰りは遅いの?」

「ああ、基本的に日付が変わってから帰ってくるから。じゃあな、由香も仕事頑張れよ」

振り向きざまに言った智紀は、機嫌良くドアを閉めて出て行った。
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