はじまりは政略結婚
兄は笑顔を保ったまま私を小さく促し、その人のところへ歩み寄る。

私は少し警戒心を持ちながらも、その男性を控えめに見上げた。

「お久しぶりです、久保田社長。お元気でしたか?」

どうやら、どこかの企業の社長らしい。

見覚えがないということは、実家に来られたことは無いということか……。

父と親密な関係の社長や副社長たちは、一度や二度は我が家に訪れたことがある。

その人数は決して多くはないだけに、挨拶で私も姿を見せるので、そういう人たちの顔はだいたい覚えていた。

「本当にお久しぶりですね。お元気そうで何より。ところで、こちらの方は?」

私にニコリと笑顔を見せたその人は、すぐに兄に向き合った。

「ああ、妹の由香です。3歳年下の大事な妹なんですよ」
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