はじまりは政略結婚
盗み聞きをする自分が嫌に思えるけど、どうしても気になってしまう。

さっきの口ぶりだと、里奈さんは少なからず智紀を好きだったんだろうと想像出来て、心の中がざわついた。

わざと二人の隣の席に座ると、スマホをいじる真似をしながら、注文したコーヒー口にする。

だけど耳は、しっかり彼女たちの会話に向いていたのだった。

「里奈って、まだ副社長に未練があるの?」

「じゃない? ほとんど一方的に別れを告げられたみたいだし」

そのやり取りに、思わずカップを落としそうになる。

話ぶりから、里奈さんは智紀の元カノになるということだ。

だから、兄が私の前で彼女の話を渋ったのかと納得出来た。

きっと涼子さんもあの態度から考えれば、そのことを知っているはず……。

それにしても、智紀のことは好きじゃないはずなのに、思わぬ過去を知ってしまい、動揺している自分がいる。

お腹を満たそうと、コーヒーと一緒に注文したサンドイッチに、まるで手を出す気になれない。

思い返せば、彼女は智紀の事務所所属なのだから、今でも接点があるはずだ。

だとしたら、頻繁に顔を合わせていても不思議じゃない。

里奈さんて、一体どんな人なんだろう……。
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