はじまりは政略結婚
「まさに、嫌な予感的中だわ……」

先週は智紀に連れられて来たから良かったけど、今日は正面玄関から入らないといけない。

だけど、誰でも入れるわけではなく、受付で用件や身分証の提示が必要だったのだ。

さっそく入れず、玄関前でウロウロする私は、もはや不審人物そのもの。

「智紀を呼び出してもらおうかなぁ。でも、仕事を邪魔したくないし……」

チラチラ中を見ながら、落ち着きなく辺りを歩きまわっていると、見事、警備員に声をかけられてしまった。

「失礼ですが、当局に何かご用ですか?」

振り返ると、ガタイのいい40代くらいの男性が、仁王立ちで見下ろしている。

眉間のシワは深く、あきらかに私を不審な目で見ていた。

「あ、あの……。私、百瀬由香と申しまして……」

こんな威圧感のある人と接することは、全く慣れていない。

半泣き状態で名前を名乗ると、途端にその人は姿勢を正したのだった。
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