はじまりは政略結婚
私のその言葉は、かなり意外だったらしく、智紀は目を丸くしている。

「オレに会いたかった……?」

確かめるように言われハッと我に返り、慌てて両手を顔の前で思い切り振った。

「あ、違うの。えっと……、ずっとすれ違ってばかりだったでしょ? だから、私は智紀をまともに見てなかったから……。だから……」

言いたいことがまとまらず、言葉に詰まった私は、とうとう俯いてしまった。

何を言おうとしても、結局『会いたかった』に繋がってしまう。

それで職場まで押しかけてくるなんて最低だ。

智紀も海里(カイリ)の時みたいに、私をウザイと思ってしまうかもしれない……。

だから、いつも控えめでいなければいけないのに。

「ごめんね、智紀。やっぱり、私帰るから。仕事、頑張ってね」

とにかくここは、さっさと部屋を出よう。

ずっと真顔で私を見ている智紀を残して身を翻した途端、引き止められるように後ろから抱きしめられたのだった。
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