はじまりは政略結婚
「智紀?」

一気に高まった鼓動を感じながら、緊張で体が火照ってくる。

「帰すかよ……。会いに来てくれたんだろ? オレも、由香とちゃんと顔を合わせたかったよ」

吐息が耳にかかるくらい、智紀は顔を近づけて話してくる。

ドキドキがさらに加速してきて、私を抱きしめる彼の腕をそっと握ったのだった。

「迷惑じゃないの? 勝手にここまで来てしまったのに……」

「迷惑なわけないだろ? 本当に嬉しい」

智紀がそうやって受け止めてくれたことが思いのほか嬉しくて、ゆっくりと振り向かされて目が合う彼と、少しの間見つめ合っていた。

こうやって改めて見ると、本当に端正な顔立ちをしている。

今までは、派手で軽そうな兄の友達というイメージしかなかったのに、思っていたよりずっと智紀は優しい。

「由香、好きだ」

智紀は真面目な顔つきでシンプルにそれだけ言うと、唇を重ねてきたのだった。
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