はじまりは政略結婚
唇を離しては塞ぎ、その度に舌を絡められて、息をするのも大変なくらいだ。

どれくらいの時間、キスをしていたのか分からないくらいに、智紀が唇を離してくれた時には、私の呼吸は乱れていた。

「今日は、一緒に帰ろうか? そんなに急ぎの仕事はないんだ」

そしてギュッと強く私を抱きしめた智紀は、呟くようにそう言った。

「えっ? でも、あんなにたくさん書類が山積みじゃない」

「いいんだよ。今日中にやらなければいけないものじゃない。な? だから、一緒に帰ろう」

智紀の胸に顔を埋めていると、その温もりが心地よく感じられて、さっきまでのドキドキが不思議と落ち着いてくる。

そうしたら、もっと一緒にいたいと思ってしまっていた。

「うん……。智紀と一緒に帰りたい」

戸惑う気持ちもウソじゃないけれど、言葉にした気持ちも本当だった。

「今夜は、由香を離さないよ」

抱きしめる腕に力を入れた智紀が、そう言ったのだった。
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