はじまりは政略結婚
その後は、手際よく退社準備をした彼に引っ張られるように、テレビ局を後にした。

最初に来た時と同じ駐車場に停めてあった車で、マンションへと帰ったのだった。

里奈さんを、少しでも見かけられたらいいなと思っていたけど、それは実現出来ずじまい。

それなら、智紀から直接聞いてみようとも考えたけれど、今夜は無理っぽそうだ。

なぜなら……今夜の智紀は、ベッドでのキスを止めようとしないから。

とても話が出来る雰囲気ではない。

「ね、ねえ、智紀。ちょっと苦しいよ……」

かろうじて唇を離すと、智紀も呼吸が乱れている。

いつも余裕たっぷりの彼にしては珍しい。

「なんだか、いつもと違うね? 余裕がない感じ……」

そう言うと、智紀は私を見下ろしながら少しムッとした。

「当たり前だろ? 今夜は会いに来てくれて、本当に嬉しかったんだ。よく考えたら、オレは由香の寝顔は見てたけど、由香はそれすらなかったんだもんな」

本当その通りで、私が寝た後帰ってきて、起きる前に出勤する智紀とは、完全にすれ違っていた。
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