はじまりは政略結婚
「何でもないってことないだろ? どこか上の空だし、小さくため息をついてたじゃないか」

抱きしめられたままそう言われ、思わず顔を上げた。

「えっ? 私、ため息なんかついてた?」

まだどこか不満げな智紀は、恨めしそうに見ている。

「ついてたよ。まさか、こうなったこと後悔してる?」

「ええっ⁉︎」

突拍子もないことを言われ、目を丸くしてしまった。

里奈さんが気になることや、智紀を本当に好きになったのか認められない葛藤はあっても、体を重ねたことは全然後悔していない。

それに一般的に、そういう心配ごとは女性がするものだと思っていた。

それだけに、不謹慎にも智紀を可愛いと感じてしまう。

「智紀でも、そんな風に思うんだね?」

クスッと笑うと、彼に優しく頬をつままれた。

些細なことなのに、胸がキュンと締め付けられる。

「由香にとって、オレはどんなイメージなんだよ。それに、思ってた以上に心を開いてくれたことが嬉しかったから。これからも、そうであって欲しいんだ」
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