はじまりは政略結婚
指輪をつけて出社なんて恥ずかしいけど、どこか嬉しい気持ちもウソじゃなくて、いつも通りにオフィスへ行くと、竹内さんが速攻で気付いたのだった。

「由香ちゃん、その指輪って婚約指輪?」

目を輝かせる彼女は、私の左手を取ってまじまじと眺めている。

「いえ、婚約指輪は別にあるんです。これは、それとは関係ないもので……」

照れながら答えると、竹内さんは目を丸くした。

「そんなに指輪を贈ってくれるの? さすが嶋谷副社長ね。うちの百瀬副社長は、人気モデルの涼子さんが恋人だし、世界が違う感じがするわ」

「確かに涼子さんは素敵ですけど、私は冴えないですし、本当は嶋谷副社長に釣り合ってないんじゃないかなって思ったりするんです」

今日はからし色のツインニットで、地味な格好この上ない。

だけど、自分を輝かせる術が、私には分からなかった。

ーーーというより、分からなくなっていると言った方が正解かもしれない。

小さくため息をつきながらパソコンを立ち上げていると、竹内さんが覗き込んできた。

「そうかなぁ? 由香ちゃんて、可愛いと思うけど」
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