はじまりは政略結婚
だけど、そんなことはとても信じられない。

そもそも涼子さんは兄の恋人で、智紀はその兄の親友だ。

その彼を好きだなんて、まるで想像もできなかった。

「本気だよ。 やり方は汚かったかもしれないけど、オレはあいつが好きだから」

ストレートな言葉に、胸が高鳴り締め付けられる。

「じゃあ、私は? 私だって、10年以上も智紀の側にいるのに、一度も恋愛対象として見てくれなかったじゃない」

その言葉に半信半疑が拭えないけれど、涼子さんが智紀を好きなのだと思わずにはいられなかった。

「涼子は、オレにとって大事な女友達だ。それ以上でも、それ以下でもないよ」

突き放すような言い方に、涼子さんの表情はさらに曇る。

そしてその瞬間、彼女が少し体を離したかと思うと、智紀にキスをした。

その光景があまりに衝撃的過ぎて、息を飲むほどに視線を外せない。

涼子さんがそれほどまでに彼を好きだったのかと思うと、複雑な気持ちが込み上げてきたのだった。
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