偽善的マンネリズム


「“はい”がひとつ余分。風邪引くぞ」

紺色の薄いストライプ・シャツを着ながら、その広い背を向けて言う男。


乾かした髪は手持ちのワックスで横へと流され、さっきまでの乱れはもうどこにも感じられない。


所詮、私とはどんどん遠いところへ戻っていくだけのことだが。


「うるさいな」

「優しく言ったのに?」


「偽善者」

そこで私はシーツを胸あたりに当てて起き上がり、反吐が出るわと鼻で笑ってみせる。


「それは否定しない」

くつくつ笑い、バッグを手にした男がこちらを振り返ってさらりと言う。


「否定したら、大嘘つきだものね」

自信たっぷりに認められて苛立つ私は、さらに嫌みたっぷりの微笑を返した。


「また連絡するから」

「……」

待ってるとは思われたくない、と最後の言葉には無言を貫くのがポリシーである。


それを嘲笑うかのように、バタンとドアの閉まる音が室内に虚しく響いた。


< 4 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop