偽善的マンネリズム
「“はい”がひとつ余分。風邪引くぞ」
紺色の薄いストライプ・シャツを着ながら、その広い背を向けて言う男。
乾かした髪は手持ちのワックスで横へと流され、さっきまでの乱れはもうどこにも感じられない。
所詮、私とはどんどん遠いところへ戻っていくだけのことだが。
「うるさいな」
「優しく言ったのに?」
「偽善者」
そこで私はシーツを胸あたりに当てて起き上がり、反吐が出るわと鼻で笑ってみせる。
「それは否定しない」
くつくつ笑い、バッグを手にした男がこちらを振り返ってさらりと言う。
「否定したら、大嘘つきだものね」
自信たっぷりに認められて苛立つ私は、さらに嫌みたっぷりの微笑を返した。
「また連絡するから」
「……」
待ってるとは思われたくない、と最後の言葉には無言を貫くのがポリシーである。
それを嘲笑うかのように、バタンとドアの閉まる音が室内に虚しく響いた。