color ~蒼の色~
(あたしは家政婦か…)

堂々と入ることも出来ず、入り口に隠れながら、総二郎を探した。
(あ、いた…)
いつもの眼鏡はかけておらず、壁にもたれながら汗を拭いていた。

(あんな姿、初めて見るな)

いつもはだるそうに、運動なんてめんどくさい~なんて言う奴が、スポーツマンらしい姿を見ると、なんだか新鮮で、それでいて、知らない誰かを見てるようだった。

(今なら声かけてもいいかな…)

中に入ろうとしたとき、一人の女の子が総二郎に近づいていった。

(しまった、入り損ねた)

結局中には入れず、思わず二人を盗み見ることになってしまった私は、引き返そうか迷ったけれど、目が離せなくなっていた。

(女の子…)

何か話しかけ、嬉しそうに総二郎の顔を自分のタオルで拭うその子は、まっすぐに総二郎を見ていた。

(きっと峰さんだ…)

短い前髪を手櫛で直し、首にタオルをかけて、自分の顔にそれをあてる彼女は、汗をかいてるにもかかわらず、見ている私すら不快感を感じないぐらい、とてもキレイに見えた。

それぐらい、とても生き生きしていた。

(あれが、好きってことか…)

きらきら。
きらきら。

彼女はとても輝いて見えた。


(見るんじゃなかった)

私の知らない、総二郎の時間。
私の知らない誰か。

総二郎の背中が遠く感じた。
< 39 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop