color ~蒼の色~
店に入るとカウンターに総二郎の姿はなく、自転車の鍵だけが置かれていた。

(二階かな)

二階へあがろうと奥に進めば、見慣れたスニーカーが脱ぎ散らかされていて、テーブルふたつ置いてあるだけの座敷に、横を向いて寝転がる総二郎がいた。

「おはよ」

「おそよーの間違いだろ」

時刻はとっくに正午をまわり、総二郎の態度からして機嫌がよろしくないのは明白だった。

「ごめん、留守番させて」

「べっつにー…」

「これ、お詫び。今日はレモン」

これでご機嫌とりというのも安い考えだけど、それしか思い浮かばなかった。

よっこいせ、と体を起こした総二郎は、感情の読み取れない顔で私を見ていた。


「なんでふたつ?おやっさんの?」

「ううん、私と総二郎の」

「……………………」

返事をしないまま、しばらくじっと私を見た総二郎は、無言で立ち上がり、私からひとつカキ氷を取り上げ、
「上行くぞ」
と階段を上っていった。

(やっぱ怒らせたかな…)

机の上には宿題がひろげられ、シャーペンや消しゴムが乱雑に置かれていた。

「ノルマ終わった?」

「途中までなー」

総二郎は、そう言いながら片手で、ざざーっと机のものを下に落とし、カキ氷を置いた。


(この沈黙は嫌だな…)

なにか話題はないかと、冷たい氷を頬張りながら、溶けて混ざっていくのを見つめていた。


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