color ~蒼の色~
それから俺は、あてもなく近所を探したけれど、吉野らしい人影に会うことはなく、気づけば花火の上がる音が遠くの方から聞こえていた。

(吉野の居場所なんか、わっかんねー…)

吉野の親父さんのところに戻れば、総二郎の姿もなく、吉野も帰ってはいなかった。
常連客とおぼしき人たちがちらほらと、馴染みの店が“臨時休業”になってることに慌て、事情を知った総二郎の両親までも、吉野の行方を捜していた。

会話の流れで、なんとなく俺も事情を知ることが出来た。

吉野の親が離婚したこと。
母親は探すこともなく、帰っていったこと。

「ありがとうな、あとはこっちで捜すから、きみは帰りなさい」

そう言われ、俺もこれ以上はお手上げだったため、帰ることにした。

「あ、そうだ。途中でジロー見かけたら、帰るように伝えてくれないか?」

「わかりました」

総二郎は、一度も店に戻って来ていなかった。
総二郎のおばさんも、
「あの子が一番、行方知ってそうなんだけど」
戻ってこないところをみると、おそらくまだ見つかっていないんだろう。

花火大会も終わり、すっかり静かになった街中を、俺は歩いた。
(吉野、苦労してんだな―…)
ふと俺は、握っていたものに気づいた。

(りんご飴、置いてくんの忘れてた)

総二郎が落としたりんご飴。
普段何を考えてるかわからないあいつだけど、一個だけ、はっきりわかったことがある。

あいつにとって、吉野は“ただの”幼馴染みじゃない―。

それを本人が気づいているかはわからないが。

家に着く直前、立ちすくむ総二郎を見つけた。

「総二郎!」

「ん?…あぁ」

「吉野見つかった?」

「いや…」

「お前が一番よく知ってんだろ?あいつの行きそうなとこ」

肩で息をする総二郎は、眼鏡を外し、手で汗を拭いながら、大きく深呼吸していた。
もう一度ゆっくり眼鏡をかけ、俺に背を向けて言った。

「そう思ってたんだけどさ、いないんだよな」
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