color ~蒼の色~
「ただいま―…」

ガラッと開けると、涙目のおばさんが飛びつくように、私の手を握ってくれた。
「こんな時間まで、親に心配かけて!」
どうして真っ先にうちにこなかったの!?と、言われたとき、私も同じように涙ぐんでしまった。

「ごめんなさい、おばさん」

「いいのよ、疲れたでしょう?今日は休みなさい」

おばさんは私の乱れた髪を指で撫でてくれた。

ことの経緯などをおばさんに話していたとき、外で父が叫ぶ声が聞こえた。

「ジロー!蒼、帰ったぞ!」

その声にドキリとしたら、おばさんが手を握ったまま言った。

「遅いから帰れって言ったんだけどね、頑固でしょ?うちの子」

困った顔して笑って、「ほら、でも男の子だからね」って言った。

勢いよく引き戸は開かれ、入り口に立っていたのは、息を切らせ、あちこち汚れてしまったTシャツで首元の汗を拭いている総二郎だった。

「あ、あの…ごめん、総二郎」

私が言えば、大きなため息をついた総二郎は、その場でしゃがみこんでしまった。

「…あー…もう…」

肩で息をする総二郎は、片手で眼鏡を外し、両膝に顔を埋めていた。
怒ってるんだろうか、呆れてるんだろうか。
どっちかなんて、顔が見れないからわからない。

だけど私は、その姿がどうしようもなく嬉しくて、誰もいなければきっと、その丸まった身体を抱きしめていたかもしれない。
そんな衝動に駆られたけれど、足は自然と総二郎の目の前まで動いていた。

「ごめん、捜してくれてたんでしょ?私…」

言い終わらないうちに、総二郎の空いた手で腕を掴まれた。

「俺、言っただろ」

「え?」

「お供するって。置いてくなよ」

何も、何も言えなかった。

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