color ~蒼の色~
午後2時をまわり、カウンターで一息ついていると、まだ暖簾のかからぬ入り口を開け、総二郎がやってきた。

「おっそっよーさん」

「おはよ、てっきり夕方ぐらい寝るもんだと思ってたよ」

「俺も~」

いつもと変わらぬ総二郎は、手に紐をぶら下げていた。

「それは?」

「ん?三郎さんにくくり付ける必須アイテム」

今日もあちぃな、という総二郎に、冷たい麦茶を入れると、一気に飲み干しグラスを置いて、私に言った。

「行くか」

「うん」

それから私たちは、私の今は“元”家に向かった。

そこには誰もおらず、そのことにホッとした私は、簡単に荷物をまとめた。
冬物の入った衣装ケースを自転車の荷台にくくり付け、かごには学校の荷物、手には袋に詰めた、今着れそうな数枚の服。

鍵をかけ、ポストに入れておこうと思ったとき、ふと思い返し、もう一度家に入ることにした。

「ちょっと待っててね」

「忘れもの?」

家に入り、急いで妹の部屋に行った。

“1まい、もっていくね。おねえちゃんは、いつでもあそこにいるからね”

と書置きし、妹の机に飾られていた、私との数少ない2ショット写真を1枚持って、部屋を出た。

“茜が、いい子に育ちますように”

最後に、そう一言書いた。


鍵を閉め、もう使うことのない鍵をポストに入れた。


「夜逃げってこんな感じかな?」

「“昼逃げ”ですけどね~」

私は両手に大荷物、総二郎は重い自転車を押して、私たちはもと来た道を歩いた。


さようなら、私の住み慣れた家。
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