color ~蒼の色~
「待った」

強く腕を掴まれ、私の肩が総二郎の胸に触れた。

「まだ何も言ってないだろ」

特別な友達が、特別な“異性”へと変わると、少し触れただけで、こんなにも触れた場所が熱を持つものなの?
掴まれた場所から、じわじわと拡がって私の全身が熱を帯びていく。

「蒼、自分が“あの時”、何をしたか知ってるか?」

「………え?」

わけがわからず、顔をあげて総二郎を見たら、思いもしない至近距離。

「蒼が俺を、こんなふうにしたんだろ」

「何、言って………」

掴まれた腕がさらに強く握られ、痛みを感じる。
総二郎の目から逃げられない。
前にもこんな瞬間があった。

「蒼が、俺に“色”を与えたんだろう」

――――色?

時々聞いた、色の話。
いつもその真意がわからず、首を捻って尋ねてみても、答えは曖昧で。
その度、私もそのまま流していたけれど、今は違う。

「色って何?」

私は知りたい、総二郎のこと。
私の身体に拡がる、この熱の正体を。

総二郎は腕の力を少し緩め、代わりに私を胸で受け止めるように引き寄せた。
思わず空いた手で、総二郎の胸に手をあてた。

(ち…近い…っ)

熱い、熱い。
身体が熱い。

総二郎の服をぎゅっと握り締め、ただ胸の中で、総二郎の言葉を待つしかなかった。

「蒼だけだ。俺の目に色んな色が見えるのは」

私の髪を撫で、頬へと滑る、総二郎の手。

「笑ったとき、怒ったとき、悲しいとき、嬉しいとき」

くすぐったくて、もどかしくて。

「蒼には蒼にしかない“色”があって、その全部が俺の視界を染めてった」

総二郎の右手が、私の首に触れた。
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