color ~蒼の色~

罠。

「怖いよ、蒼ちゃん」

「大丈夫。平井君も調べてくれるって言ってたし、大人しくしてるよ」

「絶対、ひとりにならないでね」

「うん」

そうか、あの子は私を“標的”に選んだのだ。
私がいれば、まどかに手は出せないし、今では遠巻きだったクラスメイトも、話しかけてくれるようになり、私達は孤立しているわけではない。
富田さんのグループだけが、時々睨みをきかせるぐらいのもので、逆に彼女らが孤立してきているのも事実。

(気をつけなきゃ―…)

気を抜いちゃいけない。
私だって用心するにこしたことないんだ。


「どーした?蒼」

久しぶりに二人きりで過ごしていたのに、随分考え込んでしまっていた。

「なんでもないよ…、いや。あったわ」

「何それ」

学校から帰り、私の部屋で夕食を待っていた。
各々持ち帰った宿題をしていたけれど、全く手に付かず、考え事ばかりしていたらしく、見事に私の宿題は白紙。

今は無理だと諦め、ノートを閉じた。

「何かあったのか?」

「あのね、実は―――……」

私が話す間、総二郎は黙って聞いていた。

「なるほどねー…。大人しくしてたかと思いきや、穏やかじゃないねー」

「でしょ。私も気をつけなきゃ…」

何かされるのでは、と思うと、さすがに身震いがする。
無意識に腕をさすっていたのだろう、背後から総二郎に抱きしめられた。

「大丈夫、何もさせないから」

「うん、近くにいて。でも、総二郎いないときどうしよう…」

「探す。それに、させない」

「でも、誰が何してくるかわかんないし…」

私の肩に顔を埋めながら、総二郎は両手で私の腕を擦ってくれた。

「わかんねーかなぁ。あれだ、俺もね、沸点そんな高くないわけよ」

「一見、怒らなさそうなのにね」

「平和主義者ですから」

抱きしめられるとホッとする。
安心する。
私を包む暖かい腕に、私の腕も重ねた。

「総二郎に、ギュッてされるの好き…」

「ん、俺も」

総二郎に身体を預け、自然に唇が重なった。
いつでも私を包む、このぬくもりがある限り、私は頑張れるから。

ずっとこうして、ギュッとしていてね。
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