ヤンキー君と異世界に行く。【完】
『アレク、魔族を撃退して』
「エルミナ……」
『ほら、行きなさい。この子は私が守ってあげる』
エルミナは、仁菜に微笑みかける。
アレクは名残惜しそうな顔をしたが、剣を仁菜に渡した。
そして。
「ありがとう……また、会いに来るよ」
そう言うと、仁菜の目の前でエルミナにキスをした。
(わ、わああ……!)
初めて実際に見るキスシーンに、仁菜はあたふた。
エルミナの体はもう実体がない。
だけど、水に口をつけただけとは到底思えない。
そこにはたしかな温かみがあるような、
長年の苦しみをわかちあうような、
そしてお互いの気持ちを確かめ合う二人の姿が、仁菜にははっきり見えた。
アレクが離れると、エルミナは笑った。
『バカね、あなたは生きているのよ。
ちゃんと生きた女の子を愛しなさい。
今度来たときには、私はここにいないわよ。
私だって、ちゃんとあの世に行って、転生しなきゃ』
「転生……」
『ええ。生まれ変わったら、またどこかで会いましょうね。
あなたに会えて、幸せだったわ』
どこか突き放すような、エルミナのセリフ。
それは、アレクの今後の幸せを願ってくれているのだと。
仁菜にも、そしてアレク本人にも、伝わらないわけはなかった。
「ああ……必ず、またどこかで」
アレクは、うなずく。
その顔にも、優しい笑みが浮かんでいた。
アレクは過去を振り切るように、身を翻し、敵に向かっていく。
「みんな……!」