ヤンキー君と異世界に行く。【完】
『素直に答えられたあなたには、この綺麗な方をあげましょう』
「えー!?」
そんなお約束な!
仁菜がうろたえると、シャボン玉の中の汚い颯が余計にわーわー言っているのが見えた。
どうやら、こっちに颯の声は聞こえないけど、逆に颯にはこっちの声が聞こえているようだ。
「ち、違うって!
ハッキリ言えば綺麗な颯の方がタイプだけど、それ狙ったんじゃないってー!」
懸命に訴える仁菜に、エルミナはくすくす笑いながら、右手を差し出す。
するとシャボン玉がすうっと仁菜の横に移動し、着地してぱちんとはじけた。
中から出てきたのは、ずぶ濡れになった汚い颯。
「颯!」
「おっまえなあ、汚いって言うなよ!
汚いと臭いは、他人に言っちゃいけねえんだぞ!地味に傷つくんだからな!」
「ちょ、そのビチャビチャな格好で近づかないでえ!」
「うっせ!こうしてやる!」
「きゃー!」
颯にヘッドロックをかけられる仁菜。
その腕をパチパチたたいていると、エルミナの笑い声がした。
『さっきの気持ちを、わすれないでね……』
「えっ?」
『大事なのは、目に見えないこともあるわ』
……って、どういうこと?
首を傾げる仁菜と颯。
エルミナは穏やかに笑ったまま。
『じゃあ、ニーナのことは任せたわよ、ハヤテくん。
私、行くわ』
「ちょ、待てよ!どうして俺達の名前……」
『さあ。何故だか、わかってしまうの』
そういうと、エルミナは、戦うアレクの方を見つめた。
『……また、いつか……』
仁菜はハッとする。
エルミナの体が、足元から、水の泡となって、徐々に消えていくのが見えたから。