ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「エルミナさん……!」
『ニーナ、あなたは私のようにはならないで……。
どうか、幸せにね』
エルミナは微笑んだまま、とうとう泡の塊になってしまい……静かに、水面へと消えていってしまった。
「……ありがとう……エルミナさん……」
仁菜は最後の泡が消えてしまうまで、泉を眺めていた。
「って、そんな場合じゃねえって!」
颯の声で、我に帰る。
振り返ると、怪我をした仲間たちの向こうで、同じようにボロボロになったルカとロカが、三つ目の鳥に飛び乗り、宙に浮かんだところだった。
「みんな!」
剣を颯に預け、駆け出す仁菜。
颯も剣を持って、傷ついた仲間たちの元へ。
「カミーユ、矢は!?」
「すみません……撃ち尽くしたみたいです……」
「ちっ、魔族め……!」
荒い息をしながら、シリウスが舌打ちをする。
味方が動けない間に、ルカとロカは鳥に乗って、空高くへと舞い上がってしまった。
どうやら、一時退散ということらしい。
あっという間に見えなくなった黒い影。
静かになった泉には、もう呪いもなにもなかった。
ただその真ん中に、月がぼんやりと写っていた。