ヤンキー君と異世界に行く。【完】
アレクがまっすぐに見つめてくるので、仁菜は胸の奥をキュッとつかまれたような気がした。
「ありがとう。
ニーナのおかげだ」
アレクは低い声でそう言うと……
突然仁菜の手を取り、その狭い手の甲に、軽くキスをした。
(うっ、わあああああああ!!)
仁菜の体は瞬間湯沸かし器のように熱くなり、一瞬で頭から湯気を立ち上らせた。
「アレク!テメー、この浮気者!」
「ん?ああ、ハヤテは知らないのか。
これはこっちでは、尊敬を意味するキスであって……」
なんだ、そうなのね。
仁菜はアレクの冷静な態度に安心しながら、どこかで残念だと思ってしまった。
「ニーナ、おぶろうか?」
それでも……。
アレクの態度が、ますます優しくなった気がする。素直に、嬉しい。
(だけど、甘えちゃダメだよね)
仁菜はマントを深くかぶり、首をふった。
「歩けるだけ、歩きます」
しっかりと言ったその言葉に、仲間は驚きながら……やがて、笑顔でうなずいた。
(あたしだって、しっかりした女の子になるんだ)
仁菜はエルミナの言葉を思い出していた。
『あなたは、私のようにはならないで』
……エルミナは、素敵な女性だったと思う。
ただひとつ、彼女に足りなかったのは、誰もが苦手なこと。
それは。
孤独な自分を、認めること。
ついちょっと前まで、自分も自暴自棄になってた。
でも、今はそれを少し忘れよう。
誰も自分を知らない、この世界では。
精一杯、生きてみよう。
仁菜はそう思い始めていた。