ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「んーん。そんなことない。
ニーナは、絶対可愛い」
ラスは、いたって真面目な顔で仁菜を見つめた。
「……っ!!」
相手は、女装して口紅までしている男の子。
それでも仁菜は、そのアクアマリンの瞳に見つめられると、ドキドキした。
「あは……ありがと……」
アレクさんにめっちゃときめいていた昨日まで。
そして今は、ラスに。
(……あたしって、惚れっぽいのかな?
いや、惚れてるわけじゃないか。ドキドキしてるだけだし……)
中学時代は勉強一色(クラスに、ちょっといいなあ、好きかも……程度の子はいたが、話もできずに終わった)で、男に免疫がないから困る。
(だから、ちょっと優しくされただけで、すぐにドキドキしちゃうんだ、多分。
しっかりしなきゃ……自分を見失うな、あたし!)
智慧の塔にあったように、もし自分が心を奪われた人に、幸運が訪れるなら。
それなら絶対、だまされないようにしなくては。
本当に自分を好きになってくれる人を、自分も好きになりたい。
そのためには、冷静にみんなを見なくては!
仁菜は自分の頬をぱちんと叩いた。
「蚊でもいたかー?」
すぐ後ろから、颯のマヌケな声が聞こえる。
(颯だけは、ないわ)
仁菜は返事もせずにそのまま歩き続けた。