ヤンキー君と異世界に行く。【完】
(あわわわわ!!)
どうしてよいのかわからない仁菜の胸から、またぺりぺりと音がした。
男は器用に、その肌に最小限だけ触れ、細長いコードの先に付いていた計器を取り外した。
「うん、心拍も正常。良かったですね」
白衣の男は、仁菜ににこりと笑いかける。
仁菜は一瞬変に慌ててしまった自分を、恥ずかしく思った。
(お医者さんなら、当たり前だ……)
またタブレット端末に向かう男に、仁菜はたずねた。
「あのう、ここはどこでしょうか」
「どこだと思いますか?」
「……病院?あたし、川に落ちて……」
「うん、記憶も言葉も、はっきりしている、と」
川に落ちた。
仁菜は突然、そのことを思い出した。
「……颯はっ!?」
自分と一緒に落ちた颯は、どうなったのだろう。
まさか、まさか……
仁菜は自分の胸が痛いほど暴れるのを、抑えることができなくなった。
(颯に何かあったら、あたしのせいだ……っ)
あのとき、たしかに颯に手をつかまれた。
つかまなくたって良かったのに……。