ヤンキー君と異世界に行く。【完】
何もないってば。
呆れていると、やがて男湯から声がしてきた。
「こらハヤテ、浴槽で泳ぐな!」
シリウスだ。
「えー、いいじゃん、広いんだし」
お前は子供か。
「それにしても、アレクは相変わらずすごい筋肉ですねえ」
カミーユののんびりした声。
「そうか?」
「ほんとだ、すげー。美術室の彫刻みてー」
颯の無邪気な声に、思わず男湯の景色を想像してしまい、赤くなる仁菜だった。
「ふふっ」
ラスの笑い声が聞こえた。
赤面してるの、見られた?
思わずラスの方を見ると、彼は相変わらず背中をこちらに向けていた。
「あっちはにぎやかでいいね」
「そ、そうだね」
「ねえ、俺ももう少しそっちへ行っていい?」
なんてこと。
「絶対ダメ!」
「えー。じゃあ、せめて顔そっちに向けていい?
話しにくいよ」
それはそうだけど。
返事をするのが遅れると、ラスは少しだけ体の向きを変えた。
濡れた金髪の間から、アクアマリンの瞳がのぞく。
きれい、と思う間もなく、ラスが笑顔で話しかけてきた。