ヤンキー君と異世界に行く。【完】
……ぴきーん。
その場が、凍り付いた。
弟の手が離れ、自由になる。
「ニーナ!」
アレクから解放された颯が、よろけた体を受け止めてくれる。
「結婚前に妊娠とは、なんと破廉恥な……」
「弟よ、こんな女をもらうことはない」
ああ、そういうこと。
それがこの世界の常識だから、凍りついたわけね。
(悪いけど、こっちの世界では、授かり婚だって立派な結婚なんだから!)
と思っていても、自分の大胆な嘘に、自分で赤面する。
本当に自分がそんなことになったら、お父さんは泣いちゃうだろう。
お母さんは怒り狂って、颯のうちに殴りこむに違いない。
「ニーナ、大丈夫か?」
思わずつかまっていた腕から離れようと思うのに、颯はそうさせてくれない。
もう一方の腕を肩に回されて、身動きがとれなくなった。
見つめてくる目は真剣で、芝居だとは思えない。
どきりと高鳴る心臓。
信じられなくて、うつむいた。
颯にときめくなんて、それこそ嘘だ。
「はあ……なんじゃ、やっと嫁が見つかったと思ったのに。
二人とも人妻じゃったとはなあ。
さっさと修理をして帰っておくれ」
長老はがっかりした様子で、孫二人を連れて退出した。
あとに残された一行は、大きな安堵のため息をついた。