ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「でも、こんなこととか、お医者さんみたいなこととか、なんでもできるじゃないですか」
初めて会ったとき、仁菜はカミーユを医者だと思ったのだった。
「勉強だけは好きでしたから。今も好きですけど。
この旅では自分の無力さを思い知るばかりです。
ハヤテの方が、よっぽど役に立ちましたよ」
精霊の谷でのことを言っているのだろうか。
あんなの、王様に変な贈り物をして、泉に飛び込んだだけじゃん。
「そんなことないです!
カミーユさんがこうしてバイクを直してくれなかったら、みんな困るんです。
旅の途中で誰かが怪我や病気をしないとも限らないし。
そんなとき、あなたがいなかったら絶対にみんな、困るんです。
カミーユさんは、みんなの不安な気持ちを支えてるんです……」
自分でも、何を言っているのかよくわからなくなって、途中でうつむいてしまった。
そんな仁菜を、カミーユは驚いたような顔で見ていた。
「キミは僕を、買いかぶってる。
僕は国でも、なかなか研究の成果が出ない、役立たずなんですよ」
ことん、とカナヅチが地面に置かれた音がして、仁菜は思わず顔を上げる。
カミーユの声が、今までにないくらい暗かった気がした。