ヤンキー君と異世界に行く。【完】
あたしの価値って、なんだろう。
そんなものあるのかな。
うつむいたままでいると、優しい声が降ってきた。
「ああ……。ラス様への忠誠がなかったら、僕の花嫁になってもらうのに」
「……!?」
突然の意外なセリフに、仁菜は耳を疑う。
「きっと優しいキミとなら、幸せな家族ができるでしょうね」
カミーユは特別照れたふうでもなく、ちゃかしているふうでもなく、自然に笑っていた。
(優しい?あたしが?)
とっても疑問だけど、こんなふうにずっと笑ってくれる人が隣にいるのは、たしかに幸せかも。
仁菜は想像を膨らませる。
カミーユが夫で、仁菜が花嫁。
二人の間にできる子供は、彼に似た翡翠のような目をしているのかな。
そこまで想像すると、一気に頬が熱くなった。
(子供だなんて……飛躍しすぎちゃった)
きっと年上の彼は、気を使ってくれただけに違いないのに。
「じゃあ……あたし、カミーユさんの研究を手伝わなきゃ。
ところでいったい、何の研究をしてるんですか?」
真に受けちゃいけないと思って、冗談めかして返事をした。
すると、カミーユの手が止まり、仁菜の髪から離れていった。
「それは……」
たちまち、彼の眉間にシワが寄る。
「すみません。研究の話は、ここではできない」
カミーユは強引に話を打ち切ると、仁菜から顔をそらす。
バイクの装甲を本体にセットしはじめる手が、さっきより不器用に見えた。